『ぼんくら』宮部みゆき 下巻 [└いろんな本たち]
前回からの続き。
この作品の楽しみ方はいくつかあるが、そのひとつが「味覚」
『鬼平』にも食べ物がよく出てきますが、この物語にもよく出てくる。
「煮売屋」やら「振り売り」やら、それはそれは、うまそうなのである。
ところてんだの、だんごだの、そばだの、田楽だの。
絵(漫画)の場合ですと、豪勢な料理を、綿密、詳細に描いたものなんかより、
"まる書いてちょん"みたいな単純な線画の"団子"がうまそうに感じることがある。
小説の方でも「幸せな気分で熱いこんにゃくをはふはふ食った」などと、文中にさらりと書かれると、おなかがグーである。
横道ばっかり行って、なかなか本題に入りませんねぇ。
でも、こういうところがこの作品の魅力なのですよ。
で、もうひとつの楽しみ方。
「ミステリー」として読む。
上巻、下巻からできているので、600ページを超す長編である。
ただ、最初のうちは、短編(一話完結)が5つほど続く。
登場人物は、だいたい同じで、時系列にならんだエピソードである。
と、ここらで、あれ、短編集なのか、と、勘違いしてしまいそうになる。
ところが、話を読み進めていく毎に、すべてが、綿密に計算された布石を隠していることに気が付きます。大長編ミステリーなのです。
「鉄瓶長屋」で何かが起こっている。
深く、静かに、何者かが画策している。
探偵役は、主人公の同心、井筒平四郎である。
もともと事件解決に心血注ぐというタイプではない。
今回は、なんとなく、そういう役回りになってしまった、
なりゆきでそうなってしまった。
だけれど、何かは着々と進んでいる。
平四郎はその匂いを追いかける。
まわりの人間たちがまた、おもしろい。
平四郎を助けたり、まぜっ返したり、おちょくったりと
時には、どちらが主役か、わからない。
知るや知らずや、若すぎる差配人、佐吉。
謹厳実直、お店大事の久兵衛。
長屋の心、煮売り屋のお徳。
ロボットのような?子供、おでこ。
何でも測る?弓の介。
忍者のような旧知の同心、黒豆。
平四郎が貫禄負けする、岡っ引の政五郎。
などなど、出てくる人物の多彩な書き分けは見事。
そして、最後に、「江戸の文化と言葉」を楽しむ!
『いえね、まったく、これをたのしまねぇ手はありやせんや』
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